
I. 人的資本経営が注目される背景
人的資本経営が注目を集めています。
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
経産省HP:https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html
経済産業省が、2022年7月に「人的資本経営コンソーシアム」を設立し、同年8月に内閣官房は「人的資本可視化指針」を公表しました。人的資本可視化指針とは、人的資本を可視化するために情報開示がどうあるべきかを明確化したものです。
それを受けて、2023年3月期以降の有価証券報告書から、有価証券報告書の「財務情報」と「非財務情報」の内、非財務情報に該当する人的資本経営に基づく情報の記載が義務化されました。
このように、人的資本経営では、人的資本経営の実施状況を開示することが求められています。

II. 人的資本可視化指針とは
「人的資本可視化指針」では、開示が望ましいとされている7分野19の項目が策定されています。
分野 | 項目 |
1.育成 | 01)リーダーシップ 02)育成 03)スキル・経験 |
2.エンゲージメント | 04)従業員のエンゲージメント |
3.流動性 | 05)採用 06)維持 07)サクセッション |
4.ダイバーシティ | 08)ダイバーシティ 09)非差別 10)育児休業 |
5.健康・安全 | 11)精神的健康 12)身体的健康 13)安全 |
6.労働慣行 | 14)労働慣行 15)児童労働・強制労働 16)賃金の公正性 17)福利厚生 18)組合との関係 |
7.コンプライアンス・倫理 | 19)法令遵守などに関する状況 |
これまで可視化されていなかったため、これまで可視化されていなかったものを可視化することが望ましいことは理解できますが、開示項目には、「価値向上に関する要素」と、投資家からのネガティブな評価を回避するための「リスクに関する要素」の2種類の要素があります。
上記の分野で見ると、番号が少ない(1・2・3・・・)ほど、「価値向上に関する要素」の意味づけが高く、番号が多い(19・18・17・・・)ほど、「リスクに関する要素」が高いと言われています。
人的資本可視化指針は、必ずしも開示義務があるものではなく、かつ、開示される情報の基準も多岐にわたっているため、企業としては開示の目的に沿って、選択的に開示する、という手段をとることもできます。
III. 有価証券報告書に記載が義務付けされた項目とは
一方、有価証券報告書に記載が義務付けられた項目は、2分野6項目となっています。
これは義務化されているため、「人的資本可視化指針」の内容は、選択的に(都合のよいものを)開示することができますが、これは義務付けされているため、項目によっては内容や基準を工夫する必要があります。
1.サステナビリティ(持続可能性)情報
①人材育成方針
多様性の確保を含む人材育成方針を示します。研修の時間や費用、参加率などが挙げられます。なお、目標をどの程度の水準に設定するかは企業の裁量に委ねられています。
②社内環境整備方針(働きやすい職場環境づくりの方針)
実際に多様な人材に対応できる社内環境を、いつまでにどれほど整備しているか、あるいは整備する方針であるかを示します。
具体的な指標としては、従業員満足度、定着率・離職率、人材に対する投資額などです。
2.人材の多様性を示す情報(指標)
③女性管理職比率
管理職全体に占める女性比率を示します。
④男性育休取得率
男性の育休の取得率を示します。
⑤男女間賃金格差
開示する情報は、金額ではなく男性の賃金に対する女性の賃金の割合とし、正規・非正規雇用に分け、連結ベースではなく企業単体ごとに記載する必要があります。
⑥人的資本や多様性の測定可能な指標と目標
育児休暇取得率、育児休暇後の復職率・定着率などを示します。これは、開示が義務付けられているため、開示要素や基準は選択できるものの、全ての分野・項目において何等かの報告が求められます。

IV. 人材価値を最大化するには
これまで、人的資本経営の可視化のための項目について述べてきましたが、そもそも「人的資源経営」の目的の1つに「人材価値の最大化」があります。
そして、人材価値を最大化するためには、個人と組織の両方の成長を促進するアプローチが必要と言われています。
具体的には、以下のような方法があります。
1. スキルと知識の継続的な向上
1) 教育と研修
個々のスキルや専門知識を高めるために、定期的な研修や勉強の機会を提供します。テクノロジーや業界の変化に対応できる能力を育成することが重要です。
2) 自己啓発
自分のスキルセットを広げるために、自己学習や資格取得を奨励します。
2. 目標設定とキャリア開発
1) 明確な目標設定
個人が成長するためには、達成可能で明確な目標を設定し、その達成度に基づいてフィードバックを受けることが大切です。
2) キャリアパスの提供
成長のためのキャリアパスを提供し、昇進や新しい挑戦の機会を与えることが重要です。
3. フィードバックと評価
1) 定期的なフィードバック
ポジティブなフィードバックと改善点を明確に伝えることで、個人の成長を促進します。具体的で建設的な評価が求められます。
2) パフォーマンス評価
目標に対する進捗を評価し、適切な報酬や昇進を与えることで、モチベーションを維持します。
4. エンゲージメントとモチベーションの向上
1) 意義のある仕事
仕事に意義や目的を感じることで、人材のモチベーションを高めます。個々の貢献が会社にとって重要だと感じさせることが重要です。
2) コミュニケーションの強化
上司や同僚とのオープンなコミュニケーションを促進し、チームワークを強化します。
5. 柔軟な働き方の導入
1) ワークライフバランス
柔軟な働き方を提供することで、仕事の効率や満足度を高め、個人が自分のペースで成長できる環境を作ります。
2) リモートワークやフレックスタイム制度
働き方に柔軟性を持たせ、社員の健康や生活の質を向上させます。
6. 多様性と包摂性の推進
1) 多様な視点の活用
異なるバックグラウンドや考え方を尊重し、組織の中で多様性を活かすことで、より革新的で効率的な解決策が生まれます。
2) インクルーシブな環境作り
全ての社員が平等に機会を持ち、尊重される文化を築きます。
これらの要素を統合的に進めることで、個人の能力を最大限に引き出し、組織全体の生産性や成果を向上させることができます。
V. 人材価値の最大化につながる「従業員エンゲージメント」
先に、人的資本経営が求められ、そのためには、人材価値を最大化するためのアプローチが必要と述べましたが、多くの企業では、既にそれらに取り組んでいると思われます。
なお、その中でも特に、「4.エンゲージメントとモチベーションの向上」については、概念としてはわかるものの、具体的に何をすれば良いのか、特に「エンゲージメントの向上」については、何に取り組めば良いのか、判らない方が多いと思います。
逆に言えば、これまでほとんどノータッチであった「エンゲージメント」、特に「従業員エンゲージメント」を向上させるアプローチをすれば、これまでと大きく異なる方法で人材価値の最大化を実現することができます。
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